【創作小説】星を見に。


創作小説「星を見に。」という作品です。短いです。こういう話が好きです。

この作品は、「小説家になろう」でも掲載しています。
那音の作品一覧(「小説家になろう」に移動します)



真夜中の風は思っていた以上に冷たく、防寒にと着てきたカーディガンの隙間を刺すように吹いている。
結はすっかり冷えてしまったココアを一気に飲み干した。自動販売機で買った時は、確かに温かかった。
空き缶を足元に置くと、そのままゆっくりと立ち上がった。
境内から少し離れたところに晴樹が立っていた。崖縁に設置されている背の低く頼りないフェンスに寄りかかりながら、結の方をじっと見ている。

「なあ」

晴樹が少し声を張って、結を呼ぶ。
少し不機嫌そうに、ぶっきらぼうな言い方だった。
それもそうだろう。彼は十二時を回った段になって、いきなり結に呼び出されたのだ。
その上、指定された場所に到着したかと思えば、大した説明もされないまま学校の裏山にある神社まで連れて来られたのだ。

「どうしてこんなとこに連れて来るんだよ。寒いし眠いし、帰りたいんだけど」

彼の言い分は正当なものだった。

「ちょっと、星を見に。ほら、今の時期って流れ星が見えるらしいから」

「だったら別に、俺を呼び出す必要ないだろうが」

「だって晴樹、前に流れ星見たいって言ってたじゃん。それに、こんな真夜中に女の子一人じゃ色々と危ないでしょ?」

「……あのなあ、コーヒー一本でボディガードって、人のこと馬鹿にしてるのか」

そう言った割に晴樹はそこまで怒った素振りではなく、むしろ呆れたような言い方だった。
既に空になった缶コーヒーを片手でニ、三回揺らすと、隣の空き缶用のカゴに向かって放り投げた。

「ほら、そろそろだよ。早く早く」

スマホの時間を見ながら、結は晴樹を傍に呼んだ。
その日は午前一時二十二分から流れ星が見えるだろうという情報を事前に調べていたのだった。

「ハァ……めんどくせーなあ」

晴樹も渋々、結のもとに歩いて行く。
そこからは空を遮る建物や屋根、電線などがない、まさに星を見るには絶好のスポットだった。

「ほら、もうすぐだよ」

晴樹は流れ星が楽しみなのか、またはもうすぐ帰れるからか、少しにやけながら結の隣に立った。
右肩が軽く結の髪を撫でるように当たった。

しかし、それからしばらく待っていても流れ星が出る気配はなかった。
星は夜空にいくつも浮かんでいる。結は、そのどれかが流れ星にならないかとじっと待っていた。

「流れ星、来ねーな」

「うん……」

流れ星が現れないまま、そろそろ十分が経とうとしていた。
結は少し焦っていた。

「なあ、もう帰ろうぜ。この星を見れただけでもいいじゃん」

「待って、もう少しだけ、待って……」

「でもほら寒いし、風邪引くぞ」

「お願い。あと少しだけ」

裏山の神社で好きな人と流れ星を見ると、その恋が成就する。ただし、一緒に見ることができなければその恋は絶対に成就しない。

結の仲の良い女子のグループで、そんな噂話が流行っていた。最初は結も迷信だろうと相手にしていなかったが、同じ美術部の大山先輩がこの方法で告白に成功したという話や、他にもいくつもの成功談を聞いて、いよいよ自分もやってみようという気になったのだった。

しかし状況は最悪で、流れ星は全然見えない。このままでは、成就しなくなってしまう。

「あっ!」

祈るような気持ちで空を見ていたその時だった。一筋の光が夜空を滑り降りた。見えていた時間は短かったが、間違いなく流れ星だった。

「晴樹、見た!? 今、流れ星!」

すぐに晴樹に声をかけた。
しかし返ってきた言葉は、想像していた言葉とは違った。

「えっ、マジ!? ちょうど欠伸してて見てなかった」

口を掌で押さえながら、晴樹が言った。

「うそ……」

結は目の前が真っ白になった。
どうしていいかわからず、思わずうずくまってしまった。
一緒に流れ星を見れなければ、その恋は成就しない。噂を教えてくれた友達がそのフレーズを言った時の少し低い声が、頭の中で渦巻いていた。

「ばか……」

涙が目頭に染みていく。自分でも制御が効かず、勝手に涙が流れてきた。

「なあ、結」

晴樹がしゃがんで、結の肩をやさしくポンポンと叩いた。
幼馴染で仲が良いとはいえ、最近は全然しないスキンシップだった。

「俺、知ってたよ。流れ星の噂が、女子たちの間で流行ってるの」

風が木々を揺らした。結は思わず、晴樹の方を振り向いた。
涙で顔がグチャグチャになっているのも気にならなかった。

「でも、だからさ……そういうおまじないとかに負けたくないから、ちゃんと俺から好きって言おうと思う。結、俺……、俺、お前が好きだ」

それを聞いて結は、また頬に熱いものが流れるのを感じた。

「ばか、意味わかんない。……私もずっと好きだったんだから。ずっと好きだったんだから」

冷たい風が吹き抜けて、少しだけ二人の距離を縮めさせた。
零れるような星空に、もうひとつだけ星が流れた。


感想ください。